
サウナ愛好家の間で日常的に使われる「ととのう」という言葉。心身が深くリラックスしながらも意識が冴えわたる感覚を指すものです。利用者の主観で表現されるこの特有の感覚を、他者にも共有できるような言葉で言語化することができれば、サウナの魅力や文化をもっと広めることができるのではないか――。
自身も熱心なサウナ愛好家であり、スポーツ心理学を研究している藤田先生は、そんな想いから、「ととのう」体験をオノマトペを使って紐解くユニークな研究を行っています。
先生はサウナとどのように出会ったのでしょうか?
数年前、「サ道」というドラマを見ていて「ととのう」という感覚は何なのか気になり、サウナに通い始めたのがきっかけです。
はじめは「ととのう」がどの感覚を指しているのか分からなかったのですが、何回か通っているうちに気づけるようになりました。
サウナで温められた血管が水風呂でキューっと収縮して、その後休憩しているときにくる、全てから解放されるようなじ~んとする全身の感覚。
それで目覚めて、今は毎朝サウナに入っています。
私の専門であるスポーツ心理学で扱うメンタルトレーニングでは、リラクゼーションをコントロールする方法の1つとして、よく呼吸法が挙げられます。でも、プレッシャーや緊張を和らげることは、とても難しいんです。 よく「リラックスしている」と言いますが、リラックスしているとはどういう状態なのか、よくわからない。寝ているときが最もリラックスしているかもしれないけれど、それは自覚できないんです。
ですが、サウナに入ればリラックス以外の選択肢がなくなる。これは衝撃ですよ。
気が付けば1日に2回サウナに通うほど、サウナに夢中になっていました。
1日に2回も!
夢中になる「ととのう」という感覚は、どういう仕組みなのでしょうか?
「サウナ→水風呂→休憩」を繰り返していると、気持ちの良い感覚になるのですが、これは、自律神経とアドレナリンが関係しています。
「サウナ→水風呂」のターンでは、体が熱さや冷たさという対照的な刺激を受けて、緊張して交感神経が優位になり、アドレナリンが分泌されます。
その後「休憩」していると副交感神経が優位になり、リラックスモードに入るのですが、このときアドレナリンはまだ血中に残っているんです。
心や体の緊張が解けてゆったりとした状態なのに、意識は覚醒している。
このギャップが生理学的観点からみた「ととのう」感覚です。
ただ、実際に私たちが体験する感覚は非常に主観的なもので、人それぞれ感じ方や言葉での表し方が異なります。
私でいうと、「全身がじ~んとする感覚」が「ととのう」だと感じていますが、それを他者にうまく表現して伝えるにはどうしたらいいのか。
そこで私は、サウナや温泉・岩盤浴の体験を表現するオノマトペ(擬音語・擬態語)を集めて、 その主観的感覚を心理学の手法で捉えようという研究を始めました。
どうしてオノマトペで分析しようと考えたのでしょうか?
実は研究当初は、オノマトペではなく、サウナ後に多くの人が使っているような、ポジティブ感情を表す言葉を使って分析しようとしたんです。
例えば、「心と身体の調子がととのった」「リフレッシュした」「リラックスした」などの言葉です。
でも、うまくいきませんでした。
一般的な言語表現では、温泉でも、岩盤浴でも、入浴後でも同じ表現が使えてしまうため、サウナ特有の質を捉えることができなかったんです。
これがきっかけで、普通の言葉ではなく、オノマトペで表現した方がよいのではないかと思い至りました。
何より私自身も、「ととのう」を他者に表現するときに、「じ~ん」という表現を使っているんです。

分析からはどんな発見がありましたか?
「ととのう」体験は、3つの感覚に整理できることが見えてきました。
1つ目は「とろーん」「フワフワ」という力が抜けて浮かぶような「弛緩的浮遊感」。
2つ目は「ぐわんぐわん」「ゾワゾワ」など頭が冴えて目覚めるような「刺激的覚醒感」。
3つ目は「ポカポカ」「じんわり」など温かさに包まれるような「包容的温和感」です。
この研究によって、これまで感覚で語られてきた「ととのう」体験を、初めて言語と数値の両面から説明することができました。
実は、フィンランドのサウナ文化はユネスコの無形文化遺産に登録されています。
サウナは単なる身体的な行為ではなく、文化的意味をもつものなのだと、世界的にも認められているんです。
だからこそ、サウナの利用者が実際にどのような感覚を抱いているかを明らかにすることには、大きな意味があると思っています。
文化を広げていくためには、その経験や感覚を他者と共有できることが欠かせませんから。

今後は、どんなことに取り組んでいきたいですか?
鹿児島市は、天然温泉・サウナ・水風呂という三拍子がそろった銭湯が生活圏内に多数点在する、 全国的にも非常に稀有な「生活温泉地」です。
生活動線の中でアクセスできる手軽さや手頃な価格から、常連客も多く、地域のコミュニティとしての役割も果たしています。
また、地下水を利用している銭湯が多く、災害時には地域住民の衛生拠点として機能する、防災インフラの役割も期待できます。
こうした銭湯を今後も守っていきたいんです。
そこに、大学だからこそできることがあると思っています。
リラクゼーション効果はもちろん、見守りや防災、文化や観光といった多様な公共的価値を学術的に裏付けて、その根拠を地域社会や行政、メディア、学生へと伝えていきたいです。

藤田先生の研究は、2025年度の日本サウナ学会で学術大賞を受賞しました!
