
鹿児島大学農学部を卒業後、鹿児島県庁に入庁し、35年にわたって地域の一次産業を支えてきた 町田克郎さん。退職後の昨年10月には、大手外食チェーンへも鶏肉を供給する食肉加工会社「株式会社アクシーズ」の取締役に就任されました。学生時代の研究から公務員として現場と向き合い続けた県庁での経験、そして民間企業での新たな挑戦。その歩みと、未来を担う鹿大生へのメッセージを伺いました。
農学部では、当時どんな学生生活を送っていたのでしょうか?
私の実家は園芸農家だったのですが、知人が畜産に取り組む姿を見て、これからは人工授精や削蹄などの専門技術が重要になると感じていました。それがきっかけで、農学部畜産学科へ進学しました。
当時は、家畜管理学教室に所属していました。地域の農業関係団体にも協力していただきながら、肉用牛の肥育データを集めて分析するといった研究をしていました。分析には、「数量化」という手法を取り入れたのですが、当時は今のように手軽なソフトがなくて。学内の農業経済学教室からプログラムをお借りして、助けてもらいました。なかなか卒論のテーマが決まらなかったところから、多くの方のご協力を得て、何とか完成、卒業にこぎ着けたことを覚えています。
サークルは「海洋研究部」に所属していて、天気の良い日には、研究の合間を縫ってダイビングへ出かけていました。そうした自由で伸びやかな雰囲気は、鹿児島大学の大きな魅力だと思います。研究に打ち込みながら、とても充実した時間を過ごすことができました。
卒業後は、県庁へ進まれていますが、どのような仕事からスタートしたのでしょうか?
最初の配属先は畜産試験場でした。そこでは鹿児島の代表的なブランド「かごしま黒豚」の系統造成について研究をしていました。
黒豚の改良には約7年という長い歳月がかかるんです。限られた期間で計画的に交配を進め、血縁関係を細かく管理していく必要がありました。日々豚舎に通い、豚の観察を通して健康に飼育する難しさもありましたが、7年後の姿を思い描きながら仕事をする経験は、物事を俯瞰して考える力を養ってくれたと思っています。
その後は、牛の飼料づくりに関する研究にも携わりました。田んぼなどで見かける白くて丸いビニールがありますよね。「ラップサイレージ」というのですが、あの中で牧草を乳酸発酵させているんです。
この仕事では、農家さんや農協など、多くの方と接する機会がありました。その後も県庁でさまざまな部署を経験し、管理職として農政全般に関わるようになりましたが、この頃に多くの方と接した経験は、今でも非常に大きな財産となっています。

奄美大島へ赴任していた頃の写真。
タンカンなどの島ならではの果樹や、サトウキビ産業に携わっていました。
夏には若手職員を誘ってシュノーケリングやツーリングを楽しんでいたのだそうです。
様々な現場で、鹿児島の農業を支えていらしたのですね。
そんな町田さんから見て、鹿児島の農業にはどんな魅力があるのでしょうか?
鹿児島は南北600キロと広く、各地域の気候風土に合った誇れる農畜産物が県内各地に根付いています。県内を回る中で、地域ごとに特色ある農業が営まれていて、それぞれ農業の在り方や個性が大きく異なることにとても驚きました。
南薩の土地利用型農業、北薩や奄美の高品質な果樹、離島を含む各地のジャガイモのリレー出荷など、本当に地域ごとの強みがあります。鹿児島産のお米も国内で非常に高く評価されていますし、最近ではお茶が国内だけでなく国外からも注目されています。
また、農業出荷額の6割以上を占めている畜産業も鹿児島の大きな強みです。鶏肉や豚肉の国内需要は伸び続けていますし、和牛の輸出も大きく成長しています。
こうした多様性こそが、鹿児島の農業の大きな魅力だと感じています。
民間企業で新たなスタートを切られた今、どんな想いでお仕事に向き合っていますか?
私は、行政で培った法律や制度に関する知見、そしてこれまで築いてきた人とのつながりを活かして、会社を円滑に運営するための「潤滑剤」となる役割を担っていきたいと思っています。
『企業は社会の公器』という言葉があります。“経営の神様”と称された松下幸之助氏の言葉です。
公務員は、制度や法律を通じて公共の利益に奉仕する組織であり、民間企業は利益を追求する組織です。目的は異なりますが、企業が生み出す利益は、社会貢献とは決して切り離されるものではないと思っています。
企業が発展して安心安全な食を届けることは、結果として社会貢献につながります。
アクシーズが扱う鶏肉は、抗菌剤を使用しない「無薬鶏」として育てています。妥協せず、世界一安心安全な品質を目指し、大手外食チェーン等を通じて全国へお届けすることに、私は大きな誇りを感じています。

最後に、今の学生たちへどんなことを伝えたいですか?
実は先日、共同獣医学部の「畜産キャリア形成」という授業で、私の35年間の歩みと現在の取り組みについてお話しする機会がありました。講義の翌日にはレポートが提出されたと聞き、学生みなさんの優秀さと意識の高さに大変驚きました。
社会に出てみると、若いうちは自分の思い通りにいかなかったり、評価されないと感じて悩んだりすることもあると思います。ですが、社会に必要とされていない仕事は一つもありません。
目の前の仕事に向き合い、ひとつひとつ経験を積み重ねていけば、それは周囲からの信頼につながり、自分自身のやりがいや成長へとつながっていきます。若い学生の皆さんには、困難な状況にあっても諦めず、ぐっとこらえて未来への一歩を踏み出していってほしいです。

