生きている細胞が機能を失う細胞死。細胞死には複数の種類があります。免疫機能の一部として役割を果たしているように、生物の恒常性を維持するために必要不可欠な生理現象でもある一方、異常な状態として起こる細胞死もあります。そのうちの1つがフェロトーシスです。
農林水産学研究科の青木さんは、焼酎粕に含まれる成分に、フェロトーシスを抑える効果があるのではないかと研究に取り組んでいます。
広報サポーターが研究現場にお邪魔し、お話を伺いました。
研究内容について教えてください。
フェロトーシスという鉄依存性の細胞死を研究しています。
人にとって鉄は必須な原素ですが、増えすぎるとフェロトーシスを及ぼすということがわかっています。体内に鉄が入り酸素と反応すると、活性酸素ができ、脂質を攻撃して脂質過酸化を引き起こします。これが無限に続くと細胞膜が破れて、細胞が死んでしまうんです。
フェロトーシスは多くの疾患の病態の進行に関与しているのではないかと言われていて、水産分野であれば魚の成長機能や免疫機能が低下し、最悪の場合魚自体が死んでしまうといった問題に繋がっています。
養殖業では、卵から生まれたとしても死んでしまったら、生産性が上がりません。養殖業を更に発展させるには、どうやったら生まれた個体たちを出荷まで持っていけるか、死なない過程を作ることが求められます。
私の研究では、焼酎を作る際にでる焼酎粕に着目し、魚を利用した遺伝子解析を行っています。
具体的にはまず、魚の細胞を培養し、乳酸発酵させた焼酎粕を加えます。その後、細胞から遺伝子を取り出して変化を調べていくことで、焼酎粕にはフェロトーシスを抑制する効果があるということを突き止めました。
この研究を始めた背景などはありますか?
焼酎は鹿児島の特産品として沢山作られていますが、焼酎粕は廃棄されるんです。以前は海に捨てていたようなのですが、条約で海洋投棄が禁止されて以降、大きな廃棄コストがかかるようになったと知りました。じゃあ、それをどうやって有効利用しようか、というのを考えて。
焼酎粕は家畜、牛や豚の餌に混ぜて投与されていたことがあったのですが、魚類では何の研究もされていませんでした。なぜ焼酎粕が有効利用されてなかったかといえば、臭いし、腐りやすいし、粘度が高くて使いにくいからかなと。
結構匂いがします。
養殖業の観点から「フェロトーシス抑制効果の検証」、地元産業の観点から「焼酎粕の有効活用」、どちらにも貢献ができるというところも魅力的ですね!
養殖業の発展、焼酎粕の活用、両方を目指してきましたので、成果がでて嬉しいです。最終的には、養殖業や地元産業だけではなく、人の健康にも応用したいと考えています。ただ、臭いがありそのまま口にすることができないので、焼酎粕の中のどの成分が関与しているのか調べていて、現在その答えを見つけつつあるところです。
編集後記
今回の取材を通して、焼酎粕を乳酸発酵させた素材を細胞に曝露することで、さまざまな効果が期待できることが分かりました。フェロトーシスの抑制にとどまらず、肝機能の改善や、社会性・不安行動への複合的な作用も示唆されているそうです。
さらに、これまで廃棄されがちであった地元資源である焼酎粕を有効活用できる点も大きな意義です。地域資源の循環利用という観点からも、地元への貢献につながる取り組みだと感じました。青木さんは、養殖魚の健全性をより良い形で維持することができれば、結果として、より質の高い魚づくりにも結びつくのではないかと話してくれました。
また、金属を含む排水が海へ流出した場合、生活圏にいる魚が汚染の影響を受け、フェロトーシスが誘導される可能性があることが報告されており、焼酎粕乳酸発酵物を飼料として活用し、予防的に与えることに意義があるそうです。
(取材:広報サポーター 小園 亜依/馬渡 海月)